現在佳境を迎えている中国の『リーグ・オブ・レジェンド・プロリーグ』だが、上位陣をみてみると、強豪チームの間にひとつ見慣れないチーム名があることに気づくはずだ。

 2018年の世界チャンピオンであるインビクタス・ゲーミング、そして2019年の世界チャンピオンであるファンプラス・フェニックスのすぐ下の3位に位置するのは、今季LPLデビューを飾ったばかりのeスターだ。

 全メンバーがLPLのデビューイヤーとなるが、今季はトップ3から陥落したことがなく、第4週には首位に躍り出る一幕もあった。

 おまけにメンバー5人中4人は中国の育成リーグである『リーグ・オブ・レジェンド・ディベロップメント・リーグ』の出身だ。

 トップレイナーのヤン・“Xiaobai”・ションヘ、ミッドレイナーのユアン・“Cryin”・チャンウェイ、ボットレイナーのシャン・“Wink”・ルイはロイヤル・ネバー・ギブアップの下部組織から、そしてジャングラーのヤン・“Wei”・ヤンウェイはヤング・ミラクルズから移籍してきた選手だ。

 もう一人のリュー・“ShiauC”・チアハオは、『リーグ・オブ・レジェンド・マスター・シリーズ』のフラッシュ・ウルヴスからやって来た。

Screenshot by Amanda Tan/ONE Esports

 前評判は低かったものの、チームは第1週にいきなり世界王者のファンプラス・フェニックスを下すジャイアントキリングを演じ、そこからリーグに旋風を巻き起こした。

 さらに第4週にはインビクタス・ゲーミングを2-0でスイープし、その実力はもはや疑いの余地のないものとなった。

 チームはこれまで11勝5敗の好成績を残しており、スプリング・プレーオフのシード権(準々決勝からの出場)を獲得することが決定している。


ワン・フォー・オール

 一度でもeスターの試合をみてみれば、彼らがほかのLPLのチームとは異なる哲学を持っていることがわかるだろう。チームは当時絶頂を迎えていた2017年のグリフィン(韓国)を彷彿とさせるチームだ。

 ほかのLPLのチームとは違い、eスターには切り込み隊長と呼べるような選手がいない。代わりにどの選手も流れを読みながら、攻撃のきっかけを作り出すことができる。このプレースタイルは、いずれもLDLの出身である彼らの絆の深さによって育まれたものであるという。

 今季の成績を振り返ってみると、チームでキル率が70%を超えているのはXiaobaiだけであり、そのことからも彼らが万能型のチームであることが窺える。彼らはコンスタントにWinkのためにチャンスをお膳立てし、そのWinkがCryinとともに、チームのほとんどのダメージを稼ぎ出している。

 CryinはKDA(キル・デス・アシスト)で6.3とリーグ4位につけており、さらにWinkは1分平均で11.7CSをマークするなど、ファームでリーグトップの成績をマークしている。Winkはeスターのほとんどの試合でヴァルスを使用し、第4週にプレイヤー・オブ・ザ・ウィークに輝いたShiauCとともにチームを牽引している。

 eスターは序盤戦に5連勝をマークするも、その連勝は第5週にヴィシ・ゲーミングに止められてしまう。全ゲームでスレッシュとジャルヴァンを使用禁止にされた結果、彼らの歯車は決定的に狂ってしまうことになった。それ以降、eスターの対戦相手は一様にその作戦をとるようになった。

 ShiauCがお気に入りのチャンピオンを失い、さらにWeiが攻撃の糸口を掴めなくなったeスターは、ここから3連敗を喫してしまう。しかし、タリク起用に光明を見出すと、チームは再び上昇気流に乗り始めた。プレーオフに向けては、必勝パターンを封じられたときにどのように対応できるかがカギとなるだろう。

 浮き沈みはあったものの、チームは依然としてレギュラーシーズンでトップ3の位置をキープしており、周囲を驚かせ続けている。プレーオフに向けては「新たなステージで実力を証明したい」意気込んでおり、あくまでそのプレースタイルを貫くつもりだ。

勝利への哲学

 eスターはメンバーを集める際に、ただ単にお互いにうまく折り合えるだけの優等生を選んだだけではなかった。個人技の面でも卓越し、さらに価値観を共有できる人材を獲得することに成功した。首脳陣がプレイヤーに求めたのは、自分の頭で考える能力があること、素早く正しい判断が下せること、個人の野心よりチームの成功を優先すること、さらに常に落ち着きのある振る舞いができることだった。

 長くインビクタス・ゲーミングで活躍し、現在チームのオーナーを務めるリュ・“PDD”・モウは、このチーム形成のプロセスに大きく関わっている。PDDのアドバイスのもと、チームの首脳陣は経験豊富なスター選手ではなく、インテリジェンスに溢れる若い人材を軸にチーム作りを進めた。

 なかでもボットレイナーのシャン・“Wink”・ルイとジャングラーのヤン・“Wei”・ヤンウェイは、「勝利への強い意志」によって首脳陣を驚かせた。2人は新しい戦術を取り入れることにも積極的で、入団テストでは見事なパフォーマンスを披露した。

Screenshot by Amanda Tan/ONE Esports

 選手の選考プロセスは細心の注意をもって進められた。それは「システマティックなコーチングとスカウティングのメソッド」を確立するという目標のもとで進められた。その哲学はチームのあらゆる側面に適用され、チームに中長期的な成功をもたらすための基本戦略となっている。

 eスターのコーチ陣もまた、同じような戦略的視野に立って采配を振るっている。

 チームのモットーは、「チームファイトで妥協しない」という言葉に集約されている。

 積極的なチームが多い中国という地域のなかにあって、eスターのモットーは際立っている。彼らはあくまで慎重にプレーを進め、余分なキルのために無理をするようなことはない。チームマスコットの鶴のように、プレ―スタイルは落ち着きと調和を重視している。

 四千年の歴史をもつ中国において、鶴は長寿と幸運の象徴とされている。この神秘的な鳥は、まさにeスターが選手たちに求める哲学の象徴となっている。つまりゲーム、コーチ、対戦相手、そしてチームメイトを尊重するという姿勢だ。

“Work excellence is only possible with diligence.”
Credit: eStar Twitter

 eスターのコーチ陣は疑いようもなくチームの勝利にすべてを捧げており、旧正月を返上してトレーニング合宿を行ったほどだ。

 チームは本来、武漢を拠点としているが、同地が新型コロナウイルスの感染源となったこともあり、現在は上海を拠点に活動している。チームは外出を禁止されているが、その間に鍋を共にしたり、ビリヤードに興じたりして、ますます結束を強めている。

 LPLのレギュラーシーズンは4月20日に終幕する。プレーオフは4月22日に開幕予定となっている。