なぜ誰もが『ヴァロラント』に注目しているのだろうか?

 Riotが間もなくリリースするファーストパーソンシューティング(FPS)は、4月7日にクローズドベータが開始されると、すぐにTwitchでの配信が合計3400万時間も視聴され「1日で視聴された単独ゲームの最長時間」記録を更新した。同じ日には同時視聴者数が最大1700万人にも達し、『2019リーグ・オブ・レジェンズ・ワールド・チャンピオンシップ』に次ぐ2位の記録となった。

 28日に終了したクローズドベータ期間を通して、『ESPN Eスポーツ・ヴァロラント・インヴィテーショナル』『100 Thieves・ヴァロラント・インヴィテーショナル』『Fnatic・ヴァロラント・オープン・トーナメント』『Twitch・ヴァロラント・ヨーロピアン・ショーダウン』など、まだベータ段階のゲームとしては異常な数の大規模Eスポーツトーナメントも開催されてきた。

 まだリリースさえされていない作品が、一体どうしてTwitchでこれほどまでに圧倒的な存在となり得たのだろうか。


 過去3年間ほど、FPS・Eスポーツのシーンの頂点に立っていたのはBlizzardの『オーバーウォッチ』とValveの『カウンターストライク:グローバルオフェンシブ(CS:GO)』の2作品だった(『フォートナイト』などのバトルロイヤルゲームはここでは除外)。だがどちらもファーストパーソンシューティングであるという点を別とすれば、2つのゲームは大きくかけ離れたものだ。

 『オーバーウォッチ』はハイペースで架空的で派手なゲームであり、テスラキャノンを装備したゴリラや巨大な機械のボールを乗り回すハムスターなどが戦うものだ。

 プレー未経験者であれば、また場合によってはこのゲームを数百時間は遊んだプレイヤーであっても、『オーバーウォッチ』のプロの試合を追いかけるのは容易なことではない。ビジュアルエフェクトが画面中にあふれ、キャラクターたちが飛び回り、アルティメットアビリティーやその他のアビリティーが右へ左へ次々と繰り出される。具体的には以下のようなものだ。

 一方『CS:GO』はタクティカルで現実的であり、比較的スローペースなゲームプレイが行われる。トップレベルの大会では、反応時間やエイムの良さよりも、ポジショニングや優れた戦略でラウンドの勝敗が決することが多い。そのため各チームは行動開始前の位置取りに長い時間を費やすことになる。

 ひとたび銃が火を吹き始めると数秒の間に決着がついてしまうことも多い。多くの場合、1キルに1秒もかからない。『CS:GO』の試合を観戦すると、理解して追いかけるのは簡単だが、両チームがポジション移動を行う長い準備時間は退屈に感じられるかもしれない。

 そこに、3つ目の選択肢として『ヴァロラント』が登場してきた。両方のゲームのいいとこ取りだと言えるかもしれない。

 『ヴァロラント』は5対5のタクティカルシューティングであり、ゲームプレイの核となる部分は基本的に『CS:GO』と共通している。だがそこに、『オーバーウォッチ』のようなキャラクターやアビリティー使用を加えたものだ。

 試合は25ラウンド制で行われ、13ラウンドを先取したチームの勝利となる。一方のチームが攻撃側、もう一方のチームが守備側としてスタートし、12ラウンドを終えたところで攻守を交替する。

 現時点で存在するゲームモードは「ディフューズ」ひとつのみ。攻撃側は「スパイク」と呼ばれる爆弾を、マップ内に2ヶ所または3ヶ所ある指定のエリアに設置することを試みる。

 守備側のチームは攻撃側のスパイク設置を阻止するか、設置された場合には解除(ディフューズ)しなければならない。

 もうひとつの勝利法としては、どちらかのチームが相手チームの5人全員を倒せば自動的にラウンド勝利となる。ただしスパイクがすでに設置されていた場合、守備側は爆発前に解除しなければならない。

 ゲームのリリース時点では、「エージェント」と呼ばれるキャラクターの数は10人。それぞれがイニシエーター、コントローラー、デュエリスト、センチネルのいずれかの役割を持ち、その役割の実行を助けるアビリティーを身につけている。キャラクターごとに3つのアビリティーと、1つのアルティメットアビリティーを使用することができる。

 基本的に『ヴァロラント』のアビリティーは、『オーバーウォッチ』でよくあるように圧倒的な力を発揮するものではなく、銃による戦いを補助するものだ。

 アビリティーにはスモークボム、閃光弾、スパイカメラのように戦術的な動きを助けるものや、火炎瓶、手榴弾、ショックアローのように直接的にダメージを与えるものなどが含まれる。

 特にファンタジー的なアビリティーとしては、マップ中どこにでもテレポートできるオーメンのアルティメットアビリティー「フロムザシャドウ」や、3本の高ダメージ電撃が壁を貫通してマップの端にまで到達し、その間にある全ての物に当たってスポットするソーヴァのアルティメットアビリティー「ハンターズフューリー」などがある。だがそういったアビリティーでさえも、『オーバーウォッチ』の一部のアルティメットアビリティー、たとえばザリアの「グラビトン・サージ」やゲンジの「龍撃剣」のように一度でゲームを変えてしまうほどのインパクトをもたらすものではない。

Credit: Riot Games

 このアビリティーにより、『CS:GO』が抱える観戦向けEスポーツとしての最大の問題点を解決するとともに、ゲームプレイをスピードアップするような新たな戦略的深みを加え、理解しやすく観戦を楽しめるようにもなる。一方で、『オーバーウォッチ』のようにゲームが完全にアビリティーに左右されてしまうこともない。

 結果として誕生するのは、たとえ一度も『ヴァロラント』をプレイしたことのない視聴者にとっても馴染みやすく、観ていて非常に楽しいゲームだ。

 「タクティカルシューティングの制作に取り掛かろうとした時、アビリティーを導入するチャンスがあると考えた。アビリティーによりゲームプレイの多様性が高まり、新たな創造的シナリオを楽しむことや、リアルタイムでの問題解決が可能になる」と『ヴァロラント』のシニアゲームデザイナー、トレヴァー・ロムレスキはONE Eスポーツに語ってくれた。「伝統的に、FPSでアビリティーシステムがカウンタープレイを生み出すことはあまりなかった。ヴァロラントでは、ガンプレイを損なうことなく創造的な場面を作り出すことを可能としている」

 こちらは『CS:GO』の元プロ選手テイラー・“Skadoodle”・レイサムによるプレー動画。オーメンのアビリティー全てをフル活用し、1対4から華麗に相手チームを撃破している。

 アビリティーを利用することで、『CS:GO』では不可能だったような創造的なゲームプレイも可能となる。

 こちらはソーヴァのショックボルトを利用して逆転勝利でラウンドを制した見事な例だ。

 リリース時から基本的に変化のない『CS:GO』とは異なり、『ヴァロラント』のエージェントには新たなアビリティーや新たな戦略が追加され、時間経過によりゲームはさらに成長していく。

 また、32人のヒーローを揃えてFPSよりMOBAに近いとも言える『オーバーウォッチ』とも異なる部分として、Riotはエージェントの追加に対してもう少し慎重な姿勢を取ろうとしている。リリース時点では10人に限られており、当面はそれほど大人数のメンバーとなることはなさそうだ。

 「こういうゲームのエージェントを生み出すのは非常に難しい。戦術的なゲームプレイの中で何がうまくいくのか、何がうまくいかないのかについて激論を重ねた」とロムレスキは語る。「タクティカルシューティングにキャラクターを導入する上での適切な方法を見つけ出すためには徹底的なテストプレイやチームとしての調整が不可欠だった。予想の上では素晴らしいと思えたアビリティーがゲーム内では全くうまくいかないような妙なケースもたくさんあった」


 『ヴァロラント』は6月2日にPC用ゲームとして全世界同時リリースされる。