アッベ・“BirDie”・ボルクは、78歳で世界最年長のEスポーツ王者となった。

 Lenovoの『カウンターストライク:グローバルオフェンシブ』のシニアチームの元メンバーであるBirDieは、チームメイトとともに『ドリームハック・サマー2019』のCS:GOのシニア部門でフィンランド、アメリカ、ドイツを下し、見事に優勝を飾った。

Credit: Abbe Drakborg

 プロゲーマーとして二度目のキャリアを開始するまで、アッベは紙やナプキンを使って芸術品を創り出す、プロのアーティストだった。

 「私は紙やナプキンで芸術品や彫刻を作ったり、真ちゅうや銅被覆で薔薇の絵を描いたりしていた。ここ二十年は鉄より紙に情熱を傾けるようになった。ナプキンはどこにでもあるし、それを使って花やバレリーナを作れば、世界に彩りを加えられるからね。美しい芸術品を創り上げれば、束の間ではあるけど人々の生活を明るくできるし、手持ち無沙汰にならない上、手を機敏に動かし続けることができる。笑顔はプレイスレスだよ」とONE Eスポーツのインタビューに語った。

 BirDieは母国スウェーデンの「聖ルシアの舞」について作品も創っている。それは毎年12月3日に開催される、聖ルシアを祭る伝統行事だ。

 「芸術は心の深い部分について語るものだ。人々にとっては真っ白の紙に過ぎないものを、私は芸術品に変えることができる。インスピレーションは空中を漂っており、そこから新しい彫刻や芸術品を生み出すこともできる」


 BirDieは2016年にEスポーツ界へのデビューを果たした。Lenovoに誘われ、スウェーデンのシニア世代とともにシルバー・スナイパーズというCS:GOのチームを結成したのだ。それは『ドリームハック2017』のために組織されたチームで、優勝こそ逃したものの、その活躍は多くの人の胸を打つことになった。

 「チームとトレーニングを行い、CS:GOをプレーするために何時間も特訓を積んだ。多くのことを学び、新たなスキルを獲得する過程に胸が躍った。その体験は素晴らしく、旅の始まりから終わりまでを楽しんだよ」

 ゲームネームのBirDieは、紙やプラスティック、そして葉っぱを使って鳥の鳴き声を真似るのが得意なことに由来する。

 「昔スーパーマーケットで息子とはぐれた時のことをよく覚えている。その時、口笛で鳥の鳴き声を真似ながら息子を探したんだ。息子はその音を辿って、私を見つけることができた。いい話だろ? よく思い出すんだ。息子にとっては父親を捜すのに役立ち、私には彼を見つけるのに役立った。その話を聞いたチームメイトが、私をBirDieと呼ぶようになったんだ」

 昨年のドリームハックを制すると、BirDieはシルバー・スナイパーズからの引退を表明した。プロフェッショナル・ゲーマーとしてのキャリアを振りかえると、Eスポーツ史上最年長のチームの一員であることが最大の誇りだという。

 「シルバー・スナイパーズの一員として過ごした時間は素晴らしく、大切にしている思い出だ。チームで体験したことを踏まえて、私は同世代に対してEスポーツをプレーするように呼びかけるようになった。私は78歳で目標を達成して世界チャンピオンになったんだから、君にもできるってね。それは予想外のことだったし、私のような老齢にあるものにとっては偉業だった。Eスポーツをプレーすると色々と恩恵があるし、世代間の橋渡しにもなる」

The Silver Snipers from left to right: Öivind “Windy” Toverud, Inger ”Trigger Finger” Grotteblad, Baltasar “El Niño” Aguirre, Abbe “BirDie” Drakborg, Wanja “Knitting Knight” Godänge

Credit: Lenovo

 BirDieはチームと共に4年間を過ごしたが、一緒にドリームハックを制したことが最高の思い出だという。

 「シルバー・スナイパーズとともにチャンピオンシップを制することで、新しいことに挑戦して成功するにはいつでも遅くはないということを証明できた。私は大会に出るために初めてアリーナに足を踏み入れた瞬間のことが忘れられない。緊張したと同時に、すごくわくわくしたんだ。観衆が両チームに対して声援を送っていたことが気に入ったし、観衆が私たちより全然若いことにも感服した。我々が勝利すると喜んでくれたし、大いに称えてくれたんだ」

 BirDieはまた、2018年の『パリ・ゲーム・ウィーク』で若いチームとショーマッチを行ったときのことも回想した。

 「観衆のなかから、5人の選手がランダムに選ばれて、私たちと対戦したんだ。選ばれた選手は全員25歳以下だった。緊張したが、最後は勝つことができた。会場は大盛り上がりだった。最高だったね」

 シルバー・スナイパーズはパリでも大人気で、オフの間はファンに写真撮影を求められたという。

 「パリは常に私にとってお気に入りの町だったし、よく息子と一緒に美術館巡りをした。そこで若いゲーマーやファンに写真撮影を求められたのだから、いい思い出になったよ。観客は白髪頭の私たちに熱狂してくれたんだ」

 78歳のプロゲーマーにとって、人生の終盤にEスポーツをプレーするのは予想外のことだった。BirDieは「もっと早くEスポーツに出会いたかった」と後悔しているほどだ。

 「他のゲーマーに比べて遅くゲームを始めたけど、若いころに出会っていれば、きっとプロになったり、趣味としてプレーすることを楽しんだだろうね」

 プロを引退したBirDieは、現在はTwitchで“DieHardBirdie”のアカウントでCS:GOのストリーミングを行っており、他のゲームにも積極的に挑戦したいという。

 「『マインクラフト』をやってみたいんだ。これなら孫娘とできるからね。私はいつでも孫や子供とゲームがやりたいと思っていたし、今は50歳の息子にゲームを教えているところだ。『ロケットゲーム』もやってみたいね。孫娘にやり方を教わっているんだ。最近では『チーム・フォートレス2』も教えてくれたよ。今や家族三世代にわたってゲームを楽しんでいる」

 なお、初めてプレーしたゲームはAtariの『Pong』だという。

 BirDieは、自身は競技シーンでプレーするより、ストリーマーやライフスタイルゲーマーの方が性に合っていると語る。競技シーンではコンピューターの前で何時間もトレーニングをすることを求められるからだ。

 「遅くにEスポーツを始めて、わずか1日4時間しかプレーしないことは、むしろいいことだったのかもしれない。若い選手は何十時間もプレーするからね。人生にはバランスが大事なんだ。ゲームやストリーミングに1日4時間以上を費やして妻や子供、孫との時間を犠牲にしてしまえば、私のクオリティ・オブ・ライフは著しく低下してしまうだろう」


 現在UbisoftはBirDieとシルバー・スナイパーズを題材とした映画の製作を企画中で、BirDieはそれを楽しみにしているそうだ。

 「そのニュースは聞いたよ。この映画はお年寄りにとっても若い世代にとっても、インスピレーションを与える内容になるだろう。我々の物語が映画化されれば、Eスポーツに対して新しい視点を得ることができるだろうし、Eスポーツ界においていかにシニア世代が過小評価されていることもわかるだろう」

 なお、彼は自ら映画に主演することを求めているのだろうか? その点はプロの俳優に任せたいそうだ。

 「私の年齢に近い俳優だったら誰でもいいよ。きっと制作陣がいい俳優をみつけてきてくれるはずだ」

Credit: Abbe Drakborg

 Birdieの業績は、目標を追求するためには何歳でも遅くないということを証明してみせたことだろう。

 「ファンや熱烈なゲーマーたちに言いたいのは、年齢は数字に過ぎないのだから、それによって自らに制限をかけるのはやめようということだ。Eスポーツを始めるのに早すぎることも遅すぎることもないし、それは人生の他の側面についても同様だ。目標を定め、それに向けて最善の努力を傾けるだけだよ」

 また、自身と同世代のゲーマーたちには、技術を身につけることで反応速度の低下というハンデを克服して欲しいと語る。

 「私のような年寄りには、失敗を恐れずに技術を磨いて欲しいといいたいね。確かにシニア世代は反応速度に欠けるが、それでも努力して技術の向上に努めるしかない。求められるのは、忍耐、忍耐、忍耐だ。我々のビジョン、内省、そしてタイピングスキルに至るまで、すべてがゲームをプレーする上で役に立つ。これらはトレーニングを通して培うことができるんだ」

Credit: Abbe Drakborg

 アッベは最後に、勝利は勤勉な努力家のもとに訪れると語った。

 「忍耐強く、最善を尽くそう。目標に向けて努力しない限り、年齢はアドバンテージにはならない。成功はハードワークと継続の上に成り立つんだ」