親愛なるゲーム・センター様へ

 僕が最初にあなたのもとを訪れたのは、7歳のときでした。ゲームを始めたのはそのわずか1年前でしたが、その頃までにはすっかりゲームと恋に落ちていたのです。

That’s me, age 7.

 当時のゲームセンターにはたくさんのルールがありました。ルールブックや張り紙の類は一切ありませんでしたが、そこには不文律のようなものが無数に存在していたのです。

 そのルールは誰に対しても有効で、子供とて例外ではありませんでした。

 ゲームセンターにおける一つ目のルールは、「ルールは絶対だ」ということです。

 そして二つ目のルールは、台の上にコインを置くと、その台で次にプレーできるということです。

 さらに三つ目のルールは、投げ技は「狡い」プレーとして、軽蔑の対象になるということです。

 僕は一番最初に恋に落ちたゲーム、『キング・オブ・ファイターズ99』のことを今でも思い出します。自分の倍くらい大きな少年が座っていた台にコインをおいて、彼にチャレンジを表明した時のことは今でも忘れられません。当時は一回か二回しかプレーするお金がなかったから、とにかく勝ってプレーを続けることだけを考えていました。

Credit: SNK

 ゲームが始ると、僕は立て続けに相手を投げました。台は隣同士に設置されていたので、投げ技を打つたびに、相手が怒りに震えているのがわかりました。相手の少年は、投げ技は使うな! と僕に向かって怒鳴り散らしました。なんで怒っていたのか見当がつきませんでした。ゲーム内の技なのに、どうして使ってはいけないのだろう? 僕はまだ子供だったので、すぐに投げ技を使うのを止めました。僕は敗れ、台の前から立ち去ることを余儀なくされました。

 非常にがっかりしましたが、それでもプレーをやめませんでした。続く数カ月の間、投げ技が使えないのならと、よりディフェンシブなプレースタイルに磨きをかけました。僕はガードが得意になり、投げ技というガードができない技が禁止されているのもあって、対戦相手は僕に対してなにもできなくなりました。

 僕は一度、対戦相手をわずかにライフでリードしていたので、残り時間はガードに徹し、時間切れでの勝利を狙ったことがありました。僕は50セントを守るのに、それだけ必死だったのです。投げ技が使えない以上、ガードに専念すれば負けるはずがないと思っていました。

 僕は試合に勝利しました。対戦相手は怒りにまかせて台を殴りつけ、おかげでその台は修理しなければならなくなりました。母は僕にゲームセンターに行くことを勧めなかったけど、そのとき理由を理解しました。それで行くのをやめたかって? いやいや、僕はゲームを愛しすぎていたのです。

Playing Street Fighter IV in an arcade in Shinjuku.

 今日では、ゲームを取り巻く世界はすっかり様変わりしました。

 格闘ゲームはよりバランスの取れたものになり、「狡い」とされる禁じ手もなくなりました。もし同じ動きを繰り返すだけで勝利できるなら、それは自分が「ズル」をしているのではなく、学習しない相手が悪いとみなされるようになりました。

 プレイヤーたちは、投げ技もゲームの一部であると認識するようになりました。今では5回連続で相手を投げた場合、怒鳴られるどころか、Twitterで何千回もリツイートしてもらえます。

 多様なプレースタイルが受け入れられるようになったのは嬉しいのですが、時々ゲームセンターが恋しくなることがあります。怖い思いをすることもたくさんあったし、理不尽なルールも多かったけど、背中に固唾をのんで見守る仲間たちの息遣いを感じながら、勝利に次ぐ勝利を重ねていくことは、何にも代え難い快感だったのです。

Text by ホ・クン・シャン

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